国公立大学を志望する受験生にとって1つの山場となる「前期日程」入試。毎年2月下旬に実施され、入学者の大半を占めています。
一方で「後期日程」の入試は情報も少なく、あまり意識していない受験生も多いのが実情です。受験回数の少ない国公立大学志望者にとっては、受験機会を増やすことのできる大きなチャンスだと言えます。
――国公立大学を志望するにあたって、「後期日程」の入試を見直してみませんか?概要や試験内容をチェックした上で、対策方法や受験の流れまで解説します!
また、後期日程の試験では「小論文」や「面接」を必要とする大学が多いため、これらが受験科目に入っている私立大学一般入試・推薦型選抜・総合型選抜などを志望する場合も、一読の価値あり。おすすめの参考書等も紹介しますので、併せて参考にしてみてください。
1. 国公立大学「後期日程」入試とは?
1-1. 国公立大学「後期日程」入試の概要
国公立大学の後期日程入試は、前期日程の入試が終了し、合格発表がされた後である3月中旬におこなわれます。前期日程入試のように全ての国公立大学が実施しているわけではなく、また、実施している大学でも学部によっては募集されていないところもあります。
入試日程も大学により異なります。まずはそれぞれの大学の募集要項を熟読し、自分の志望大学・学部で後期募集がおこなわれているかしっかりと確認することが大切です。前期日程入試に比べ倍率や難易度も高く、大学も限られているため、一般には前期日程入試に出願した大学と同じか少しランクを落とした大学を出願する場合が多いです。
1-2. 後期日程入試の実施大学
後期日程入試を実施している大学は2024年度132大学となっています。全国に国公立大学は186校ですので、約3割の大学では実施されていないことが分かります。
例として国立大学に絞り、地方ごとに後期入試が実施されている大学を紹介します。
※2024年度入試のデータです
*参考サイト
>> 大学受験パスナビ:国立大学>後期日程(その他条件指定なし)で検索
>> 文部科学省「令和6年度国公立大学入学者選抜の概要」
○2024年度国立大学後期日程入試/実施大学一覧
大学所在地 | 大学〈学科〉 |
---|---|
北海道地方(7) | ・北海道大学〈文・教・法・経・理・薬・工・獣・水〉 ・小樽商科大学〈商〉 ・旭川医科大学〈医〉 ・帯広畜産大学〈畜〉 ・北見工業大学〈工〉 ・北海道教育大学〈教〉 ・室蘭工業大学〈理工〉 |
東北地方(7) | ・弘前大学〈人文・教・理工・農〉 ・岩手大学〈人文・教・理工・農〉 ・東北大学〈経・理〉 ・宮城教育大学〈教〉 ・秋田大学〈理工・国際・教・医〉 ・山形大学〈人文・教・理・医・工・農〉 ・福島大学〈人文・理工・農〉 |
関東地方(15) | ・茨城大学〈人文・教・理・工・農・地域未来〉 ・筑波大学〈人文・人間・生命・理工・情報・芸術〉 ・宇都宮大学〈データ・地域・工・農〉 ・群馬大学〈教・情報・医・理工〉 ・埼玉大学〈教養・経・教・理・工〉 ・千葉大学〈文・法政経・理・工・園芸・医・薬〉 ・お茶の水女子大学〈文教・理・生活・共創〉 ・電気通信大学〈情報工学〉 ・東京医科歯科大学〈医・歯〉 ・東京外国語大学〈国際社会〉 ・東京海洋大学〈海洋生命・海洋工学・海洋資源〉 ・東京学芸大学〈教〉 ・東京農工大学〈農・工〉 ・一橋大学〈経・データサイエンス〉 ・横浜国立大学〈経済・経営・理工・都市科学〉 |
中部地方(13) | ・新潟大学〈人文・法・経・理・医・歯・工・農〉 ・上越教育大学〈教〉 ・富山大学〈人文・教・経・理・医・歯・工・芸・都市〉 ・福井大学〈教・医・工・国際〉 ・山梨大学〈教・医・工・生命〉 ・信州大学〈人文・教・理・医・工・農・繊維〉 ・岐阜大学〈地域・医・工・生〉 ・静岡大学〈人文・教・情報・理・工・農・共創〉 ・浜松医科大学〈医〉 ・愛知教育大学〈教〉 ・名古屋大学〈医〉 ・名古屋工業大学〈工〉 ・三重大学〈人文・教・医・工・生〉 |
近畿地方(10) | ・滋賀大学〈教・経・データサイエンス〉 ・京都大学〈法〉 ※2025年度から廃止予定 ・京都教育大学〈教〉 ・京都工芸繊維大学〈工芸科学〉 ・大阪教育大学〈教〉 ・神戸大学〈情報・文・国際・法・理・医・工・農・海洋〉 ・兵庫教育大学〈教〉 ・奈良教育大学〈教〉 ・奈良女子大学〈文・理・生活・工〉 ・和歌山大学〈教・経・工・観光〉 |
中国・四国地方(9) | ・鳥取大学〈地域・医・工・農〉 ・島根大学〈法文・教・人間・医・理工・材料・生〉 ・広島大学〈総・文・教・法・経・理・歯・薬・工・生・情〉 ・山口大学〈人・教・経・理・医・工・農・獣・国際〉 ・徳島大学〈総・医・歯・薬・理工・生〉 ・鳴門教育大学〈教〉 ・香川大学〈教・法・経・工・農〉 ・愛媛大学〈法文・教・理・工・農〉 ・高知大学〈人・理工・医・農〉 |
九州・沖縄地方(10) | ・九州大学〈文・法・経・理・薬・工・農〉 ・九州工業大学〈工・情〉 ・福岡教育大学〈教〉 ・佐賀大学〈教・芸・経・医・理工・農〉 ・長崎大学〈経・薬・情・工・環・水〉 ・熊本大学〈文・法・理・工〉 ・大分大学〈教・経・医・理工・福祉〉 ・宮崎大学〈教・医・工・農・地域〉 ・鹿児島大学〈法文・教・理・医・工・農・水・獣〉 ・琉球大学〈人・国際・理・医・工・農〉 |
1-3. 後期日程入試の受験者数・倍率など
文部科学省の調査によると、2024年度国立大学後期選抜の平均志願倍率は9.7倍となっていました。前期選抜の平均志願倍率が2.8倍のため、やはり難易度は高いと言えるでしょう。
しかし、倍率を見る際に注意しなければならないのが、志願者数と実際の受験者数が必ずしも一致する訳ではないということです。実際の例として「北海道大学」後期日程試験の志願倍率を取り上げます。
○北海道大学 令和6年(2024年)後期日程入試/一部学部抜粋
学部 | 募集定員 | 志願者数 | 志願倍率 | 受験者数 | 受験倍率 |
---|---|---|---|---|---|
文学部 | 37 | 356 | 9.6 | 137 | 3.7 |
経済学部 | 20 | 236 | 11.8 | 76 | 3.8 |
理学部 | 50 | 613 | 12.3 | 256 | 5.1 |
工学部 | 139 | 1386 | 10.0 | 535 | 3.8 |
*出典:北海道大学 令和6年度入学試験実施状況表(一般選抜・後期日程)
出願段階では倍率が10倍を超える学部もありますが、実際は前期日程での合格者が後期日程受験を辞退することが多いため、4~5倍前後に留まる結果となっています。出願倍率の高さに慄いて、志望校を諦めてしまうのはもったいないですよ。
大学の公式サイトなどにも過去の入試情報は掲載されているので、参考にすると良いでしょう。
1-4. 試験内容
国立大学後期日程の試験内容は大学によってさまざまですが、「共通テスト+面接・小論文 or筆記試験」が一般的となっています。
特に学力は共通テストのみで測る大学も多いため、前期日程のように二次試験で挽回することが極めて難しくなっています。共通テストで志望大学のボーダーを越えておくことは必須条件と言えるでしょう。
また、面接・小論文は試験前に対策しておくことが大切です。前期日程から後期日程が始まるまで2週間ほど時間があるため、前期日程の試験結果に自信があっても面接・小論文の対策をおこないましょう。
一例として「筑波大学」後期日程の試験内容を取り上げます。
○筑波大学 令和6年(2024年)後期試験内容/一部学部抜粋
学部 | 人文・文化学類 | 生命環境学群/生物学類 |
---|---|---|
共通テスト | あり(735点満点) 〈国・数・英・理・社・情〉 |
あり(900点満点) 〈国・数・英・理・社・情〉 |
小論文 | あり(400点満点) | なし |
面接 | なし | あり(600点満点) |
学科試験 | なし | なし |
二次配点比率 | 35% | 40% |
同じ大学でも、学部によって異なる試験内容だと分かります。ただ、やはり学科試験(学力を測るテスト)を実施しておらず、二次試験の配点比率が4割ほどであるため、いかに共通テストの結果が重要であるかが分かります。
2. 国公立大学「後期日程」入試の流れ
国公立大学の後期日程試験について、実際の受験までの流れを説明します。
2-1. 出願~前期日程入試の受験
出願の時期は前期日程試験と同じとなります。受験時期が異なり混乱しやすいため、間違えることがないようにしましょう。
前期日程入試の受験までは、後期日程入試のことはそこまで意識しなくても良いかと思います。前期日程入試に出願する学校が間違いなく第一志望だと思いますので、まずはそこに受かるために注力することが大切でしょう。前期日程終了から後期日程が始まるまでは2週間ほどあります。焦らずまずは前期日程試験のことを考えましょう。
ただし、前期日程入試を受験した後で手ごたえがあまり良くなかったからと後期日程入試に出願することは基本的にできないため、後期日程試験の出願は忘れずに。
2-2. 前期日程入試の合格発表〜後期日程入試の対策
前期日程の試験終了後は「やりきった!」「休みたい…」などの気持ちもあるとは思いますが、後期日程試験を出願しているのであれば、早い内に対策を始めましょう。
前期日程で合格していれば良いのですが、もし不合格だった場合、全く対策をしていない状態で後期日程試験に臨むことは危険です。面接や小論文は数をこなすことで慣れていくものなので、対策をするに越したことはありません。
2-3. メンタルの切り替え
後期日程入試を受験する上でポイントとなることの1つに、「前期日程入試からのメンタルの切り替え」があるでしょう。
もし前期日程入試で手応えがなかった場合、今まで勉強した成果を発揮できなかったと落ち込んでしまう気持ちは十分に理解できます。しかし、メンタルが不安定なまま後期日程試験に臨むと普段出せる力すらも発揮できないことも多いです。難しいとは思いますが「後期試験はもう一度チャレンジできるチャンスだ」と頭を切り替えて試験を受けられるようにしましょう。
身近に信頼できる家族や先生・友人がいれば相談して気持ちを整理してみることも1つの方法です。
2-4. 後期日程入試の受験
ここまできたら悩むことはありません。ラストチャンスに全力投球しましょう。
後期日程入試を受けて大学に合格した先輩たちからは、「試験当日は会場に想像以上に空席があり、高い倍率にひるんでいた気持ちが不思議と落ち着いた」といった声も聞かれます。今まで対策した成果を最後にぶつけましょう。
3. 国公立大学「後期日程」入試おすすめの対策法
後期日程試験に向けて、実際にはどのような対策をとれば良いのでしょうか。
後期日程で国立大学を受験したStudiCoサポーターの経験談も踏まえつつ、それぞれの試験内容についての対策法を紹介します。
3-1. 小論文・筆記試験
小論文が受験科目にある場合はまず過去問を良く研究し、対策を立てましょう。
小論文で課される内容はその学部・学科の専門要素を反映したテーマが多いです。またグラフや表など資料が提示され、それを読み取りつつ自身の考えを書くような問題も傾向としてよく見られます。過去問を参照し、志望大学がどのような出題傾向で、どのような能力が求められているのかしっかりと理解しておくことが重要です。大学入学前ではありますが、専門分野の知識もある程度頭に入れておきましょう。
更に専門分野に関する時事問題が取り上げられることもありますので、受験1年前くらいまでのニュースや調査トピックなどを軽くさらっておくのも効果的でしょう。
国公立大学を志望する受験生は、小論文という入試方式にあまり慣れていないケースも多いと思います。受験大学の過去問だけでなく、問題系統が似ていれば他大学の過去問も参考にし、できるだけたくさんの問題に当たって「小論文に慣れる」ことを意識しましょう。
また、小論文を対策する上で最も大切なことは「添削」です。自分1人だけで答案を作っているままでは、第三者から読んでも分かりやすい文章となっているか気づくことができません。学校や塾の先生など添削指導をおこなえる人に目を通してもらうのがベストです。
通っている学校・塾・予備校の先生に添削をお願いするほか、添削指導を頼める人が周りにいない場合は、せめて保護者や友人など誰でも良いので、他者に自分の文章を読んでもらう機会を作ってください。
最近ではオンライン上で小論文を添削してもらえるサービスもあります。こちらも活用してみると良いかもしれません。
小論文対策については、河合塾講師・大田裕二先生にインタビューしたこちらの記事もぜひ参考にしてください!
>> 【小論文】河合塾講師・大田裕二先生に聞く!大学入試の小論文対策とおすすめ参考書
小論文のほかに筆記の学科試験がある場合は、前期日程入試と同じような対策で過去問や他の演習問題に取り組みましょう。
3-2. 面接
面接も小論文と同様かそれ以上に、事前準備が大切になります。
ただ、小論文とは異なり、「過去問が入手しづらい」というところに難しさがあると思います。学校や塾によっては過去に受験した先輩たちが残した情報などから、面接でどのようなことを聞かれたか知ることができたり、インターネット上で検索するとブログや合格体験記などで面接時の質問内容などを知ることができたりもしますが、自分が求めている情報が得られるとは限りません。またブログなどは信憑性が高いわけではないため、あくまで参考程度に留めておく方が良いでしょう。
つまり、一問一答のように問題を想定して答えを丸暗記しておくような対策法は現実的ではないということです。
面接対策としては、必ず聞かれるだろう「王道」の質問(志望理由、高校での活動、入学後の進路など)の軸はしっかりと持っておき、そのほかにたくさんの「引き出し」を作っておきましょう。自分のこれまでの高校生活を振り返り、エピソードをたくさん持っておくことで、どんな質問が来たとしてもその引き出しの中から答えを出すことができると思います。想定していなかった質問をされた際にも、高校時代のエピソードなどから落ち着いて答えをつくることができ、難を逃れたという先輩の声も。
「これを聞かれた時にこれを言う」と固定してしまうと、忘れてしまった時に焦って何も出てこないリスクもありますので、答えの「材料」「要素」をいくつも用意しておくといった意識が大事です。
また、志望大学を研究しておくこともおすすめします。大学の公式サイトやパンフレットから校風や特徴を理解しておき、具体例を出しながら「この大学でしかできないことがあるのでぜひ入学したい」という思いと熱意をアピールすることも大切です。
面接は小論文同様、学校や塾の先生に指導をお願いしましょう。「面接の予行演習をさせてください」とお願いすれば先生も引き受けてくれるはず。複数の大人の前で自分の意見や経験などを伝わるように話すことも、とにかく数をこなして慣れておくことが重要です。
4. 国公立大学「後期日程」入試おすすめの参考書3選
最後に後期日程入試の対策に有効な参考書を3冊紹介します。受験準備の参考にしてください!
4-1. 小論文
まずは志望大学の過去問で出題傾向を知ることから始めましょう。
対策できる期間は短いため、基本的な過去問演習に加え、以下に紹介する参考書なども適宜織り交ぜてください。
『小論文これだけ!』 シリーズ(東洋経済新報社)
小論文の書き方・考え方が専門領域ごとに分かりやすく説明されています。シリーズで経済・法学・人文・教育・国際などの分野があり、自分が志望する学部・学科に応じて選ぶことができます。
答案作成に役立つネタやキーワードなどが紹介されており、分かりやすい文章の書き方を学ぶことができるでしょう。
『短期完成 受かる11メソッド 小論文の書き方』 シリーズ(旺文社)
人文・社会学・医療系など対策分野によって書目のバリエーションが分かれており、志望学部に合わせて選べる手に取りやすい1冊です。
解答用紙をダウンロードして利用することもでき、実際の入試を意識した実践演習にも対応しています。
4-2. 面接
面接は実践の前にしっかりと自己分析をおこない、志望大学と自分の志望動機に一貫性を持たせることが大切です。参考書を活用してその方法を学びましょう。
『今から間に合う 総合・推薦入試面接』(学研プラス)
総合型選抜・推薦入試用のテキストとはなっていますが、国公立大学の後期日程試験にも十分活用できる1冊です。質問に対する答え方の参考例が載っているだけでなく、「言ってはいけない例」も掲載されています。
内容を暗記するのではなく、自分だったらどう答えれば伝わるか、何を言わないようにすべきかなど、よく考えながら応用しましょう。
5. まとめ
国公立大学の後期日程入試は志願倍率が高く、受かりにくいと考える受験生が多いのが実情ですが、志望校選び・受験対策をしっかりおこなえば、合格はそう遠い道ではありません。
受験回数が限られている国公立大学志望の受験生にとっては、ラストチャンスでもあります。後悔のないよう、小論文や面接の対策を検討しましょう。
周りの友だちが合格を決め、解放されている中で3月まで勉強し続けるといったことは精神的にも大変ですが、諦めなければきっと道は開けるはず。前期日程試験で思うような結果が得られなかった場合も、国公立大学の合格をつかみ取るため、最後まで駆け抜けましょう!!