東大入試での世界史「大論述」問題は、600字にも上る文量と、歴史を俯瞰的にとらえた上での論理的説明が求められる、大学受験世界史・最難関の問題です。東大世界史「大論述」を徹底解剖、問題の特徴と出題傾向について解説し、対策に役立つ参考書・問題集も合わせて紹介します。
1. 東大世界史「大論述」の形式とテーマ
1-1. 東大世界史の出題形式
まずは、東京大学2次試験・世界史の出題形式について押さえておきましょう。
東大世界史は例年大問3題の出題です。第1問が450~600字超の大論述、第2問が30~120字程度の小論述を複数題、第3問は記述式で語句を答える問題が中心ですが、小論述が加わる年もあります。
第2問・第3問は年によって難易度が異なりますが、東大受験者であれば確実に得点源にしたい部分です。一方、多くの受験生にとって悩みの種となるのが、第1問の大論述です。
詳しくは次の章で触れますが、東大の大論述はあらゆる時代、あらゆる地域が出題範囲となります。単なる暗記では太刀打ちできず、歴史を俯瞰的にとらえ論理的に表現する力が求められます。
さらに大変なのは、他の国公立大学の2次試験と異なり、東大の2次試験では世界史B・日本史B・地理Bのうちから2科目を選択しなければならないということです。2科目合わせて150分という制限時間の中で時間配分を工夫しながら、大論述と複数の小論述を仕上げるのは非常に難しく、合格点を確保するためには十分な準備が必要です。
1-2. 東大世界史「大論述」のテーマ
東大世界史の大論述に備えるためには、過去の出題傾向を把握しておく必要があります。過去10年の大論述の出題テーマを確認しておきましょう。
2023年 | 「1770年前後から1920年前後までの約150年間の時期に、ヨーロッパ、南北アメリカ、東アジアにおいて、諸国で政治のしくみがどのように変わったか、およびどのような政体の独立国が誕生したか」 |
2022年 | 「8世紀から19世紀までの時期におけるトルキスタンの歴史的展開」 |
2021年 | 「宗教の問題に着目し、5世紀から9世紀にかけての地中海世界において3つの文化圏が成立していった過程」 |
2020年 | 「東アジアの伝統的な国際関係のあり方と近代における変容」 |
2019年 | 「18世紀半ばから1920年代までのオスマン帝国の解体過程」 |
2018年 | 「19世紀から20世紀に活躍した女性の活動と、女性参政権獲得の歩みや女性解放運動」 |
2017年 | 「ローマおよび黄河・長江流域で『古代帝国』が成立するまでの社会変化」 |
2016年 | 「1970年代後半から1980年代の東アジア、中東、中米・南米の政治状況の変化」 |
2015年 | 「『モンゴル時代』の日本列島からヨーロッパに至る広域で見られた経済的・文化的交流」 |
2014年 | 「19世紀ロシアの対外政策がもたらしたユーラシア各地の変化」 |
さらに、「地域」「時代」「分野」「テーマ」という4つの観点から出題傾向について考えてみましょう。
●地域
東アジア・西アジア・南北アメリカ大陸・アフリカ・ヨーロッパと、あらゆる地域から問題が出題されていることが分かります。どの地域もまんべんなく勉強し論述対策をしておかなければいけません。
●時代
近現代から出題されている年が比較的多いものの、どの時代からも出題されています。2017年は古代から出題されましたが、これは2001年以来のことです。2016年には1970年代後半から80年代という、戦後史の中でも手薄になりがちな部分から出題されました。古代から現代まで偏りなく学習する必要があります。
●分野
政治史が扱われることが多いですが、経済(2004年、「銀を中心とする世界の一体化」)、文化(2011年、「アラブ・イスラーム文化」)分野が問われることもあるため、さまざまな側面から学習する必要があります。時代・地域ごとの政治・経済・社会・文化を関連付けて理解するようにすることが大切です。
●テーマ
例年異なる問題が課されているものの、繰り返し出題されるテーマがいくつかあります。
例えば「帝国、帝国の解体」というテーマは、2019年(オスマン帝国とその解体)、2017年(ローマ帝国と秦帝国)、1997年(第一次世界大戦前後の旧帝国の解体と民族問題)、1994年(モンゴル帝国の発展)で繰り返し問われています。
「移民、人の移動」は2013年(カリブ海・北アメリカの開発、人の移動)、2002年(中国移民と中国革命)で問われています。
「同時代のさまざまな地域の歴史的展開や交流」「一つの地域の歴史の流れ」(2010年オランダ、2001年エジプト、1999年イベリア半島)を記述させる問題も見られます。
そのほか「帝国主義と民族運動」「主権国家体制」も、しばしばテーマとなっています。
2015年の論述では指定語句に「博多」があり、世界史の中の日本をとらえさせようという狙いも見られました。
過去を通して現在について考えさせようという意図も感じられます。
「Me too運動」が社会的注目を浴びる中、2018年に「女性参政権と女性解放運動」がテーマとなったのは時代を反映した問題と言えるでしょう。
また、2012年の問題では指定語句に「宗教的標章法」(注あり)がありましたが、移民との共生をめぐる問題に揺れる現代のフランスを思い起こさせるような問いでした。
論述問題には大学の問題意識が反映されます。繰り返し問われていることを分析し、大学側がどのような学生を求めているかを考えてみることも大切です。
2. 600字の大論述を書くために必要な3つのこと
東大世界史の大論述問題で合格点を取れるようになるには、どのような対策・スキルが必要でしょうか。
東大世界史では、論述の字数は「~行以内」と指定されますが、1行はおよそ30字と考えます。出題される大論述の字数は15行(450字)から20行(600字)程度のことが多く、ここ数年は600字の年が続いていましたが、2019年の入試では22行(660字)でした。そのため、600字程度でまとめるのを訓練の基本とし、設問の要求に応じて450字程度や650字程度でも書けるように練習しておく必要があります。
2-1. 基礎知識のインプット
東大世界史の大論述対策として第一に必要なのは、基礎知識のインプットです。
大論述では問題文を読み、問いに対して指定語句を使って書いていきますが、当然のことながら問われている時代、場所、指定語句のことを知っていなければ書けません。「論述が書けない」と悩んでいる人は、そもそもインプットが足りていないケースが多いのです。
国公立大学の論述問題は、一般的にベーシックな知識を使えば解ける問題がほとんどです。したがって、基本事項をマスターすることが最優先であり、それは東大の入試対策にも当てはまります。
その際に重要になるのが教科書で、東大の世界史は教科書内容をきちんと理解しておけば十分対応が可能です。教科書を隅から隅まで読み込みましょう。
2-2. 歴史を俯瞰的にみる力
第二に必要なのは、歴史を俯瞰的にみる力です。
出来事の流れや因果関係を単純に説明させる論述問題も多い中、東大世界史では各時代・地域を巨視的な視点からとらえる力が求められます。そのため、東大の問題は教科書の知識で解けるとは言っても、教科書の重要語句を丸暗記しただけでは太刀打ちできません。
東大レベルを目指すには、「時代の流れ」や「同時代の諸地域の関係・交流」をしっかり押さえておく必要があります。
「時代の流れ」は各国史を整理することで比較的勉強しやすいと思いますが、「同時代の諸地域の関係・交流」を理解する上で東大受験生にぜひとも身につけてほしいのは、「○世紀の世界」を瞬時に思い浮かべられる力です。
東大では横のつながりを問う問題がしばしば出題されます。例えば「13世紀はモンゴル帝国が築いたネットワークによりユーラシア大陸の交流が盛んになった時代」であるとか、「17世紀は特にヨーロッパにおいて経済が停滞し、戦争・反乱などが多発した時代」であるといった、時代ごとの特徴が頭に入っていれば、横のつながりを問う論述への苦手意識はなくなっていくはずです。
多くの資料集には「○世紀の世界」を世界地図で表したものが掲載されているので、勉強に役立ててください。
2-3. 過去問の研究
第三に、過去問の研究をおこないましょう。
大論述の問題文を何年分か読むと分かりますが、比較的問題文が長いものが多いという特徴があります。実はその問題文の中に、答案を作成するにあたって、どのように考えればよいかのヒントとなる道筋を示してくれていることも多いのです。そのようなヒントを見逃さず、何を問われているかを正確に読み取って答案を作成する練習を積みましょう。
また、東大の世界史問題は単純な説明論述ではないので、論述初心者が作りがちな「使用語句をつなげて作文するだけ」の答案では点数になりません。「指定語句を使ってどう問いに答えるか」を考えながら、まずメモをつくる練習から始めましょう。
最初から上手な文章が作れなくても構いませんが、論述は出題者とのコミュニケーションと考えましょう。問題文の意図をくみ取り、相手に伝わるように論理的に書かれた答案でなければ点数ももらえません。
過去問については、後述する『東大の世界史27カ年[第6版] (難関校過去問シリーズ)』(教学社)などを使って、できるだけ昔のものまで遡って解くようにしましょう。
例えば「モンゴル帝国」に関する問題が、2015年と1994年という約20年の時を隔てて出題されています。また、2013年と2004年の問題で、時代は異なるものの、ともに「三角貿易と世界経済の一体化」に関連する問題が出題されました。諸地域のつながりを問う問題の多い東大では、このように似たようなテーマが10年、20年という時を経て出題されることがあるため、過去問演習が重要な意味を持つのです。
他大学の大論述を解くのもよい練習になります。国公立の論述問題全般についてはこちらの記事に詳しいので、参考にしてください。
>> 世界史「論述」対策の勉強法を徹底解説! ~各大学の出題傾向とおすすめ参考書6選~
3. 最難関世界史の論述力が身につく参考書・問題集・書籍
『東大の世界史27カ年[第7版] (難関校過去問シリーズ)』(教学社)
いわゆる「赤本」シリーズの東大世界史に特化した過去問集です。過去に出題された問題が、大問ごとに年度順で載せられているので、時系列で過去問演習を進めたい人にはこちらがおすすめです。
冒頭には大問ごとの傾向分析が詳細に記されているので、東大の出題傾向を分析するのに役立ちます。
『テーマ別 東大世界史論述問題集<改訂版> (駿台受験シリーズ)』(駿台文庫)
東大で過去に出題された大論述・小論述について詳しく解説している問題集です。
年度ごとに問題を掲載している「赤本」に対し、本書はテーマ別の構成です。つまり、「世界システム論、覇権国家の交代」「帝国の盛衰、主権国家体制の展開」「植民地と民族問題」「異文化間の交流」などのように、東大の頻出テーマで章立てされています。そのため、頻出テーマを意識しながら、東大の論述に必要な視点を身につけるのに役立つでしょう。
『荒巻の新世界史の見取り図 (東進ブックス 大学受験 名人の授業シリーズ)』上・中・下(ナガセ)
東進ハイスクールの有名講師による解説形式の参考書です。私立大学入試向けの細かい用語を網羅するのではなく、つながりや本質の理解に重きを置いた本で、歴史を俯瞰的に理解するのに役立ちます。
基礎は身についているけれど歴史の流れがイマイチ頭の中で整理できないと悩んでいる人は、面白く読めること請け合いです。
『タテから見る世界史 パワーアップ版 (大学受験プライムゼミブックス)』(学研プラス)
タイトルの通り、国家・地域ごとの「地域史」を通史で学ぶことができる参考書です。教科書や学校の授業で習う際は、古代から現代まで順番に学習するため、さまざまな地域がバラバラに登場しますが、本書は各地域の「タテの歴史」を整理するのに大変役立ちます。
東大では特定地域の通史が過去何回か出題されているため、その対策になるでしょう。
『ヨコから見る世界史 パワーアップ版 (大学受験プライムゼミブックス)』(学研プラス)
『タテから見る世界史』と同じシリーズで、こちらは一つの時代を横割りで学習する構成です。東大で頻出の「同時代の諸地域」は独学が難しいですが、こちらの参考書はその大きな助けになります。
交流、対立、人やモノの移動について各章ごとに世界地図でまとめられており、横のつながりを視覚的に理解するのにも役立ちます。
<番外編>
世界史学習に役立つ本は、何も受験用の参考書や問題集に限りません。
多くの学校の図書館に置かれている、山川出版社の『世界史リブレット』シリーズは、特定のテーマの理解を深めるのに大いに役立ちます。
1冊が非常に薄く短時間で読めるのが特徴です。『主権国家体制の成立』『国民国家とナショナリズム』『帝国主義と世界の一体化』『二つの世界大戦』など、ラインナップが非常に豊富なので、関心のある分野のものを選んで読んでみるとよいでしょう。
また、東大をはじめとする難関大学では、「近代」という概念を理解できているかが重要です。
新書の『ヨーロッパ「近代」の終焉(講談社現代新書)』(講談社)や『近代ヨーロッパ史 (ちくま学芸文庫)』(筑摩書房)は読みやすく、その助けになるでしょう。
4. まとめ
最後に、この記事の重要なポイントをまとめます。
- 東大世界史「大論述」の形式とテーマ
東大世界史の「大論述」では、歴史を俯瞰的にとらえ論理的に表現する力が求められます。テーマは「政治史」が取り上げられることが多く、特に以下のような繰り返し出題されているものには要注意です。
・帝国、帝国の解体
・移民、人の移動
・同時代のさまざまな地域の歴史的展開や交流
・一つの地域の歴史の流れ
・帝国主義と民族運動
・主権国家体制
東大の論述には、「過去を通して現在について考えさせようという意図」が見られます。繰り返し問われていることを分析し、大学側がどのような学生を求めているかを考えることも大切です。 - 600字の大論述答案を書くために必要な3つのこと
「基礎知識のインプット」「歴史を俯瞰的にみる力」「過去問の研究」の3つを意識して対策を進めましょう。
「論述が書けない」という人は、インプットが足りていないケースがほとんど。東大の世界史は教科書内容をしっかり理解しておけば十分対応できるので、まずは基礎固めが肝心です。
また、東大受験生にぜひとも身につけてほしいのは、「○世紀の世界」を瞬時に思い浮かべられる力です。特定の地域に限定した知識ではなく、より広く、俯瞰的に世界を眺めることが大切です。
そして、過去問の研究では、できるだけ昔のものまで遡って解くようにしましょう。10年、20年経って似たテーマの問題が出題されることが多いためです。
難関の世界史論述も対策を万全にして、東大合格をもぎ取りましょう!