2022年度の学習指導要領改訂に伴い、2025年度から新課程に対応した共通テストがスタートします。各教科で多くの変更点があり、受験生はこれらを十分に把握しておく必要があります。中でも大幅な改訂が見られたのは「地理歴史」「公民」。科目区分や選択などで注意しなければならないポイントが多くあります。
新課程入試について不安を抱えている受験生のために、「地理歴史」「公民」において旧課程から変更された点や留意すべき点を徹底解説。大学入試センターから実際に提示されている〈試作問題〉も分析し、新課程共通テストでどんな力が求められているのかも紹介します。対策におすすめの参考書も3冊紹介しますので、ぜひ参考にしてください!
1. 【新課程】共通テスト「地歴・公民」の概要
新課程共通テスト「地理歴史」「公民」の注意すべき点は、主に3つ挙げられます。
- 新設科目について
- 複合科目の配点について
- 科目選択について
順番にそれぞれ確認しましょう。
1-1. 新設科目について
旧課程における共通テストは『地理A』『地理B』『日本史A』『日本史B』『世界史A』『世界史B』『現代社会』『倫理』『政治・経済』『倫理,政治・経済』の10科目ありましたが、2025年度からは『地理総合,地理探究』『歴史総合,日本史探究』『歴史総合,世界史探究』『公共,倫理』『公共,政治・経済』『地理総合/歴史総合/公共』の6科目となります。
新たに『地理総合,地理探究』『歴史総合,日本史探究』『歴史総合,世界史探究』『公共』が新設され、大幅な改訂となりました。それぞれの科目のポイントについては後述します。
1-2. 複合科目の配点について
今回の共通テストより、全ての科目で2つ以上の分野が融合されて出題されることとなりました。それぞれの科目の配点は以下の通りとなっています。
・『地理総合,地理探究』『歴史総合,日本史探究』『歴史総合,世界史探究』
→総合科目が25点、探究科目が75点(計100点)
・『公共,倫理』『公共,政治・経済』
→公共分野が25点、倫理分野、政治・経済分野がそれぞれ75点(計100点)
・『地理総合/歴史総合/公共』
→うち2科目選択でそれぞれ50点ずつ(計100点)
例えば「地理総合」は『地理総合,地理探究』を選択すると25点ですが、『地理総合/歴史総合/公共』の中で選択すると50点となります。科目によって分野の配点が異なるので注意が必要です。
1-3. 科目選択について
今回の改訂で最も複雑なのが科目選択です。特に文系の受験生は2科目受験が必須となる場合が多いため、組み合わせをよく考える必要があります。詳しくは第3章で説明します。
科目によっては組み合わせて受験できないパターンもあるため、自分の得意科目、志望大学の募集要項ともよく照らし合わせながら、最適な科目を選択することが大切です。
2. 【新課程】共通テスト「地歴・公民」各科目のポイント
2-1. 『地理総合,地理探究』
『地理総合,地理探究』は、旧課程での『地理A』『地理B』とほぼ同等であると考えて良いようです。出題傾向は若干異なりますが大きな変更点はないため、旧課程の共通テストの過去問も充分参考になるでしょう。
2-2. 『歴史総合,世界史探究』『歴史総合,日本史探究』
『歴史総合』は、旧課程での『世界史A』『日本史A』を融合させたものになります。つまり『歴史総合』を選択する場合、世界史・日本史両方の知識が必要だということです。範囲としては近現代のみとなりますが、歴史を広く理解しておかなければならないため、受験生の負担は増えると予想されます。
『世界史探究』『日本史探究』は、それぞれ旧課程での『世界史B』『日本史B』に置き換えることができ、これらは共通テストでも大幅な変更はありません。
つまり、歴史分野を選択する際は以下の知識が必要だということになります。
・『歴史総合,世界史探究』選択の場合:世界史全範囲+日本史近現代
・『歴史総合,日本史探究』選択の場合:日本史全範囲+世界史近現代
2-3.『公共』『倫理』『政治・経済』
『公共』は旧課程の『現代社会』を派生させたような内容で、『倫理』または『政治・経済』との組み合わせが必須となっています。旧課程では『現代社会』のみで1つの科目として受験できたため、実質的な負担は大きくなっているといえるでしょう。
公民分野を選択する場合、『公共』は必修となっているため、この対策が最も重要です。『公共』は新学習指導要領でも必修科目となっているため、選択する受験生も多いと思われます。
『倫理』『政治・経済』は旧課程から大幅な変更点はないようです。こちらも旧課程の過去問を活用して対策ができるため、比較的取り組みやすいと言えるでしょう。
3. 【新課程】共通テスト「地歴・公民」科目選択の流れ・注意点
新課程共通テスト「地歴・公民」で複雑と言われている科目選択の流れと注意点について、理系・文系別に解説します。
3-1. 理系の場合
理系は多くの場合、共通テスト「地歴・公民」は1科目選択となります。全6科目の中から自分の得意分野を選ぶと良いでしょう。ただし『地理総合/歴史総合/公共』は多くの大学で利用できない場合があるため、注意が必要です。
他にも大学・学部によって選択できる科目を制限していることがあります。志望大学の募集要項を定期的にチェックしておきましょう。併願先の大学があれば合わせて確認し、志望校全てカバーできるような選択をしましょう。
3-2. 文系の場合
文系は2科目選択の受験生が多いため注意が必要です。
まず大学入試センターが提示している「一緒に選択できない科目」を理解しておきましょう。
【NG1】『公共,倫理』と『公共,政治・経済』
【NG2】同一名称を含む科目の組み合わせ
(例)
・『地理総合/歴史総合/公共』のうち『地理総合』『歴史総合』を選択した場合、『地理総合,地理探究』『歴史総合,日本史探究』『歴史総合,世界史探究』は選択できない
・『地理総合/歴史総合/公共』のうち『公共』を選択した場合、『公共,倫理』『公共,政治・経済』は選択できない
科目の組み合わせ可否を表にまとめると、以下のようになります。
選択1科目目 | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
選択2科目目 | 『地理総合, 地理探究』 |
『歴史総合, 日本史探究』 |
『歴史総合, 世界史探究』 |
『公共,倫理』 | 『公共, 政治・経済』 |
『地理総合』/ 『歴史総合』 |
『地理総合』/ 『公共』 |
『歴史総合』/ 『公共』 |
|
『地理総合, 地理探究』 |
× | ○ | ○ | ○ | ○ | × | × | ○ | |
『歴史総合, 日本史探究』 |
○ | × | × | ○ | ○ | × | ○ | × | |
『歴史総合, 世界史探究』 |
○ | × | × | ○ | ○ | × | ○ | × | |
『公共,倫理』 | ○ | ○ | ○ | × | × | ○ | × | × | |
『公共, 政治・経済』 |
○ | ○ | ○ | × | × | ○ | × | × | |
『地理総合』/ 『歴史総合』 |
× | × | × | ○ | ○ | × | × | × | |
『地理総合』/ 『公共』 |
× | ○ | ○ | × | × | × | × | × | |
『歴史総合』/ 『公共』 |
○ | × | × | × | × | × | × | × |
かなり複雑となっていますが、自分が選択できる科目についてしっかり理解しておきましょう。
4. 受験生にはどのような力が求められている?~〈試作問題〉分析~
2025年度新課程共通テストに際して、大学入試センターから提示されている出題方針や試作問題を通して、受験生にどのような力が求められているのか分析してみましょう。
はじめに、大学入試センターHPに掲載されている『令和7年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト問題作成方針』を参照すると、以下のような内容が記載されています。
【地理分野】
地理に関わる事象を多⾯的・多⾓的に考察、構想する過程を重視する。地理的な⾒⽅・考え⽅を働かせて、地理に関わる事象の意味や意義、特⾊や相互の関連を、概念などを活⽤して多⾯的・多⾓的に考察したり、地理的な課題の解決に向けて構想したりする⼒を求める。
【歴史分野】
歴史に関わる事象を多⾯的・多⾓的に考察、構想する過程を重視する。⽤語などを含めた個別の事実等に関する知識のみならず、歴史に関わる事象の意味や意義、特⾊や相互の関連等について、歴史的な⾒⽅・考え⽅を働かせながら、概念などを活⽤して多⾯的・多⾓的に考察したり、課題の解決を視野に⼊れて構想したりする⼒を求める。
【公民分野】
「公共」は、⼈間と社会の在り⽅についての⾒⽅・考え⽅を働かせ、現実社会の諸課題の解決に向け、選択・判断の⼿掛かりとなる考え⽅や公共的な空間における基本的原理を活⽤して、多⾯的・多⾓的に考察したり構想したりする過程を重視する。
*参考:大学入試センター『令和7年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト問題作成方針』(一部抜粋)
これらを見ると、「多面的」「多角的」「考察」「構想」といった言葉が目立ちます。正確な知識、情報を得てそれらをアウトプットするのみに留まらず、持っている知識を活用して更に思考できるかが求められています。教科書に掲載されていない資料からその場で得られる情報と授業で学んだ知識を関連付ける問題や、仮説を⽴て資料に基づいて根拠を⽰したり検証したりする問題が課されると明確に提示されていました。更に『公共』ではより実生活や社会に即した問題が出題され、多様な見方や考え方が必要だとされています。
では実際に試作問題を見てみましょう。
ここでは『歴史総合,日本史探究』『歴史総合,世界史探究』『公共,倫理』を挙げました。
【歴史総合,日本史探究 第1問】
*参考:大学入試センター「令和7年度大学入学共通テスト 試作問題『歴史総合,日本史探究』」
第1問は「歴史総合」の分野からの出題です。日本史だけでなく世界史の内容も問われていることが分かると思います。また、単に世界の歴史だけでなく各国と日本との関わりについて重要視されています。歴史総合を勉強する際にも「世界と日本」という視点を持ちながら学ぶと良いでしょう。
【歴史総合,世界史探究 第5問】
*参考:大学入試センター「令和7年度大学入学共通テスト 試作問題『歴史総合,世界史探究』」
レポート形式の出題となっており、共通テストらしい1題と言えるでしょう。表・グラフ・地図とさまざまな資料が用いられています。これらの情報を正確に読み取り、そこからその資料が何を意味しているのか、考察することが重要です。
この「思考力」を問う問題はこれまでの共通テストでも出題されています。旧課程の過去問も活用し、特徴的な形式の問題に慣れておきましょう。
【公共,倫理】
*参考:大学入試センター「令和7年度大学入学共通テスト試作問題『公共,倫理』」
特筆すべきは「SDGs」が出題テーマに取り上げられている点でしょう。社会課題として世界で議論されている問題であり、より実生活に根ざした内容となっています。
教科書的な知識ももちろん必要ですが、日頃からニュース番組や新聞などで社会情勢に触れ、世界の潮流を理解しておくことも大切です。
5. 【新課程】共通テスト「地歴・公民」対策におすすめの参考書3選
新課程共通テスト「地歴・公民」の受験対策に効果的な、おすすめの参考書を3冊紹介します。
・『共通テスト新課程攻略問題集 地理総合,地理探究』
・『共通テスト新課程攻略問題集 歴史総合,日本史探究』
・『共通テスト新課程攻略問題集 歴史総合,世界史探究』
・『共通テスト新課程攻略問題集 公共,政治・経済』 (教学社)
新課程共通テストに対応した内容となっており、基礎からしっかりと解説されているシリーズです。
単元別に分かれているため習った内容から取り組むことができ、自学自習にも最適です。苦手な単元を重点的に解くといった使い方もできるでしょう。
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・『大学入試 全レベル問題集 日本史(歴史総合、日本史探究)2共通テストレベル 三訂版』
・『大学入試 全レベル問題集 世界史(歴史総合、世界史探究)2共通テストレベル 三訂版』 (旺文社)
共通テスト対策に特化したさまざまな問題が網羅されており、解説も丁寧です。
1テーマにつき問題が2~5ページと、使いやすい構成となっています。全ての小問に解説がついているのもポイントです。
・『共通テスト 地理 集中講義[地理総合、地理探究] 改訂版』
・『共通テスト 公共、倫理 集中講義 改訂版』
・『共通テスト 公共、政治・経済 集中講義 五訂版』 (旺文社)
新課程移行に伴う重要なポイントは押さえつつも、旧課程の共通テスト・センター試験も分析・網羅されており、バランスのとれたシリーズです。
重要度がランク付けされており、視覚的にも分かりやすくつくられています。地理・公民分野で特に重要な図表読み取りに関しても丁寧に解説されており、共通テストならではの出題形式を攻略する助けとなるでしょう。
6. まとめ
新課程移行に伴い、大幅な改訂となった共通テスト「地歴・公民」。科目選択から複雑な点があるため、対策含め注意が必要です。
ただ、求められている「思考力」や「多角的な見方」「考察力」などは、旧課程の共通テストを引き継ぐ形となっています。特に資料の読み取り問題等は、旧課程においても数多く出題されてきました。過度に不安を抱える必要はありません。過去問や参考書を上手に活用しながら、高得点を目指しましょう!
*新課程入試に関してはこれらの記事も参考にしてください!
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