京都大学や大阪大学をはじめとする難関大学が出題する「和文英訳」は、大学入試英語のあらゆる問題形式の中でも、最も難しい問題の1つです。志望大学の過去問を見たり解いたりして、あまりのレベルの高さに驚いた人もいるかもしれません。
和文英訳問題への苦手意識を払拭して得点力を身につけるために、3つの攻略テクニックを身につけましょう。対策に役立つおすすめの参考書・問題集も紹介します。
※この記事は2019年9月に書かれた内容を、一部最新の情報にリライトしたものです。
1. 難易度の高い和文英訳を出題する主な大学
まず、どのような大学がハイレベルな和文英訳を出題しているのかということを押さえておきましょう。
そもそも英作文全般が難易度の高い問題形式なので、自由英作文・和文英訳を問わず、英作文を出題する大学は「難関大学」であることが多いのですが、中でも「和文英訳の最高峰」とも言える難問を出題するのが京都大学です。
分量、内容の難しさ、使用する語彙のレベルの高さ、どの点を取っても国内の大学で最難関の英作文問題と言えるでしょう。時折、出題形式を変更するというのも京大の特徴で、出題傾向が予測しにくいことが京大英作文を難問たらしめている要因の1つです。
また、京大のような不確定要素はないものの、京大に匹敵するような高度な英作文を出題するのが大阪大学です。70語程度の自由英作文と長めの和文英訳という組み合わせが、近年の出題パターンです。
東北大学も例年、分量・難易度ともに大阪大学と同等のハイレベルな和文英訳を出題しています。その他、九州大学や岡山大学、大阪市立大学、大阪府立大学、青山学院大学(教育人間科学部・文学部)、中央大学(法学部)、神戸市立外国語大学などが、同様もしくは類似した形式・難易度の和文英訳を出題しています。
ユニークなものとしては、慶應義塾大学(経済学部)のダイアローグ(会話文)の和文英訳があります。こなれた会話調の日本語を英訳しなければならない、独特の難問を例年出題しています。
2. ハイレベルな和文英訳問題の3つの攻略法
同じ「英作文」でも、和文英訳と自由英作文とでは難しさの性質がかなり異なります。
自由英作文は、限られた試験時間内で「何を書くか」を素早く考えなければならないという難しさがありますが、設問の条件に沿う範囲内であれば、自分の使いこなせる語彙を用いて作文することが可能です。言い換えれば、ある程度自分の得意なフィールドで戦うことができるのです。
それに対して和文英訳では、内容を自分で考え出す必要はないものの、英訳すべき課題文からは逃れられないという難しさがあります。しかも難関大学の和文英訳では、あえて英訳しにくい日本語が出題されるので一層難しく感じられるのです。
では、「英訳しにくい日本語」とは具体的にどのようなものでしょうか。その特徴と攻略法について解説します。
2-1. 日本語特有の表現を英訳するコツ
和文英訳を難しく感じさせる要素のひとつとして、英訳する課題文に含まれる、日本語特有の言い回しや慣用句、ことわざなどが挙げられます。例題を通じて確認してみましょう。
《例題1》
次の文を英訳しなさい。
この記事をフランス語に翻訳するなど、彼にとっては朝飯前だよ。
課題文に含まれる「朝飯前」というのは日本語特有の慣用句です。入試本番にこのような問題に遭遇しても「『朝飯前』を意味する英単語なんて、自分の使っていた単語集には載っていなかった!」などと慌てる必要はありません。
こうした言葉は、それが示す「内容・意味」を考え、シンプルで一般的な言葉に置き換えるのがポイントです。
当然ですが、「彼にとっては朝飯前だよ」をit’s before breakfast for himなどとしても意味を成しません。ここでの「朝飯前」は「いとも簡単なこと」という意味です。英語にも似た意味の慣用句にa piece of cakeやa walk in the parkなどがありますが、日本語の課題文で慣用句が使われているからといって、英訳する際にも慣用句を使わなければならないという決まりはありません。very easyなどと簡潔に表現すれば十分です。
《解答例》
・It’s very easy for him to translate this article into French.
・He can translate this article into French without difficulty.
もう1問、例題を解いてみましょう。
《例題2》
次の文を英訳しなさい。
こんな易しい訓練で音を上げるようでは、プロ野球選手になるなんて夢のまた夢だぞ。
難しいのは「音を上げる」「夢のまた夢」の部分ですね。
「音を上げる」は、「もう無理だと言って諦める」ということですから、英語ではgive upで表せます。「夢のまた夢」は、原文のニュアンスを生かしてbe only a dreamなどと言うこともできますが、ここでの意味は「プロ野球選手になるなんて無理だ」ということですから、
・you can never be a professional baseball player
・it will be impossible for you to be a professional baseball player
のような、中学レベルの英語で十分に表現できます。
《解答例》
If you give up such an easy training, you can never be a professional baseball player.
このように、課題文に日本語特有の言い回しや慣用句が含まれている場合は、その意味するところをよく考え、できるだけシンプルで一般的な言葉に置き換えることで、はるかに取り組みやすくなるのです。
2-2. 課題文を「英訳しやすい日本語」に書き換える
「言葉単位」で訳しにくい場合はそれをより単純な言葉に置き換えることで対応できますが、課題文全体が訳しにくいハイレベルな問題の場合は、このテクニックだけでは不十分です。
長く複雑な日本語の文を英訳する際のポイントは、
(1)英文として自然な文になるように意識する
(2)文の核となる主語・述語動詞を最初に決定する
(3)必要以上に日本語に引きずられないようにする
ということです。
例題を挙げますので、まずは自分で英訳してみてください。
《例題3》
次の下線部を英語に訳しなさい。
日本人同士のコミュニケーションでは、その場の空気を読むことが重んじられると言われる。その場の空気を乱すような発言や振る舞いをする人間は「自分勝手」というレッテルを貼られ、白い目で見られる。そのことへの不安から、自由闊達な意見交換が肝心とされる局面、例えば新商品開発の会議などでさえ、自分の思うところを口にするのに二の足を踏むという傾向が日本人には見られるのである。
まず、前章で見た「日本語特有の表現」をよりシンプルな言葉に置き換えるところから始めましょう。
[書き換えた文]
自由でのびのびとした意見交換が重要とされる時、例えば新商品開発の会議などでさえ、自分の意見を言うのをためらう傾向が日本人にはある。
続いて、先ほど挙げた3つのチェックポイントに沿って英文を作成していきましょう。
(1)英文として自然な文になるように意識する
(2)文の核となる主語・述語動詞を最初に決定する
この課題文の核となっているのは「日本人には自分の意見を言うのをためらう傾向がある」という部分です。まずここから英訳します。
Japanese people tend to hesitate to speak up...
ここに残りを続けますが、その際、「自由闊達」や「局面」という単語について過度に悩むことのないようにしましょう。3つめのチェックポイント
(3)必要以上に日本語に引きずられないようにする
を思い出してください。
とりわけ、「局面」という言葉をどう処理するかはこの問題を解く上で鍵を握る部分です。つい、「『局面』といえば、aspectか、それともdimensionか・・・・・・」などと考えてしまいますが、ここでは「自由闊達な意見交換が肝心な時でも」と言い換えても十分意味が通じます。
つまり、whenを使ってごく簡単に表現できるのです。
《解答例》
Japanese people tend to hesitate to speak up even when free and open exchange of opinions is important, such as a brainstorming meeting for a new product.
※speak up(自分の考えを口に出す)/brainstorming meeting(自由にアイデアを出し合うミーティング)
2-3. 「超難問」は満点を狙わなくていい
ここまでは、課題文の日本語を易しい言葉に置き換えたり、主語・述語を整理したりして、できるだけ英訳しやすいように課題文を書き換えるテクニックを紹介しました。
しかし、こうしたテクニックを持っていても、やはり「これ、英語で何て言ったらいいんだろう・・・」と悩む箇所が出てくるのはある程度避けられません。問題の難易度が高くなればなるほど、そうした箇所は多くなるでしょう。
もし本番の試験で英訳するのにぴったりの表現が出てこなかった場合、どのように対処するのが賢い方法でしょうか。
例えば、先ほどの例題の「二の足を踏む」という部分をどうしても英語にできない、という場合を考えてみましょう。
まず、絶対に避けたいのは次のような“逃げ方”です。
× Japanese people tend to [ ] speak up...
× Japanese people tend to 二の足を踏む speak up...
分からないからといって空欄にしてみたり、そこだけ日本語で埋めてみたりしても、これでは英文として完成していないため、部分点さえもらえない可能性が高くなります。
このような時には、多少の減点は覚悟で、似た意味の言葉に置き換え、失点を最小限に抑えるというのが現実的な対処法です。
「二の足を踏む≒躊躇する、ためらう」を英語にできないのであれば、「~したがらない」あるいは「~するのが得意でない」という言葉で考えてみます。もちろん、「躊躇する」と「得意でない」とでは、実際にはかなりニュアンスが異なります。したがって、減点対象となるリスクは高いものの、文全体が英語としてある程度正しく成立していれば部分点は確保できるでしょう。
他にも、「自由闊達」の「闊達」がよく分からなければfreeだけでもよいでしょう。「意見交換」も要するに「話し合い」ということですから、簡単にdiscussionと表現してもよいでしょう。このようにシンプルに解釈していけば、一見難解そうに見える課題文でも、以下の《別解》のように、中学校レベルの基本単語のみで、ひとまずは英訳できることが分かります。
《別解(※減点される可能性あり)》
Japanese people are not good at expressing their own opinions clearly even when free discussion is important, for example in a meeting for a new product.
この例題は文量としては少ない方で、京都大学、大阪大学、東北大学などが出題する、複数の文章を英訳しなければならない「超難問」では、満点を取ることはほぼ不可能と言っても過言ではありません。
本番の入試では時間の制限もあります。分からない部分に何十分も時間をかけていては、本来得点できたはずの他の設問で失点することにも繋がりかねません。そうした事態を避けるためには、和文英訳問題に必要以上に時間を費やすことなく、初めから60~70%の得点を確保することを狙う方が理に適っているケースもあると言えるでしょう。
3. 難関大学の和文英訳問題対策におすすめの参考書
ここまで、難易度の高い和文英訳問題に対応するためのテクニックを紹介してきましたが、入試本番の和文英訳問題で確実に高得点を狙うためには、さらに細かな技術の習得と十分な問題演習が必要です。
そのために役立つ英作文の対策本を2冊紹介します。
『大学入試英作文ハイパートレーニング和文英訳編』(桐原書店)
和文英訳のポイントを文法事項ごとにまとめた参考書です。レベルも比較的易しめで、解説が非常に詳しいため、和文英訳対策の初めの1冊として使うのに適しています。
難易度の高い和文英訳を出題する大学を志望している人がこの参考書を見ると、「自分の志望大学の過去問と比べて易しすぎるのでは?」と思ってしまうかもしれませんが、英作文の実力を着実に高めていくためには、基礎レベルの英文を正確かつスピーディーに書けるようになることが最も重要です。その力をつけるのにぴったりの1冊と言えるでしょう。
入試のポイントを押さえた「語法文例65」「テーマ別文例90」も大変有用です。さらに、ぜひ「例題暗唱文例集」(切り離し可・音声CD付き)のフレーズを暗記しましょう。これで覚えた文例を応用することで、多様な英文がすらすら書けるようになります。
『減点されない英作文 改訂版』(学研プラス)
実際に難易度の高い英作文問題の演習を始めると、冠詞の使い分け、名詞の単数・複数、動詞の語法といった細かい文法事項を正しく運用することがいかに難しいかということを痛感するでしょう。
また、課題文の日本語に引きずられ、英語として不自然な文章ができあがってしまうというのも和文英訳特有の難しさです。
このような、受験生が引っかかりがちなポイントに焦点を当て、高得点を狙うためのテクニックや知識を網羅したのがこの参考書です。既にある程度英作文の練習を積み、その難しさを身に染みて分かっている人にとっては大いに役立つ参考書と言えるでしょう。
また、巻末の「入試頻出語い200」が、英作文で使える語彙力強化に役立ちます。通常の単語集とは異なり、「自然とふれあう」「社会に出る」「昔から」など、一見シンプルなようで英訳しにくい重要語彙が200項目まとめられています。ハイレベルな英作文を出題する大学を志望している人なら、隅々まで読む価値のある1冊です。
4. まとめ
最後に「ハイレベルな和文英訳問題」3つの攻略ポイントを振り返りましょう。
●日本語特有の表現を英訳するコツ
・課題文の「日本語特有の言い回しや慣用句、ことわざ」は文字通りに訳そうとせず、それが示す「内容・意味」を考え、シンプルで一般的な言葉に置き換えていく。
・日本語の課題文で慣用句が使われていても、英訳する際に必ずしも慣用句を使う必要はない。
●課題文を「英訳しやすい日本語」に書き換える
・課題文が長く複雑で訳しにくい場合、課題文全体を平易な日本語に書き換えてみる。その際のポイントは、以下の通り。
(1)英文として自然な文になるように意識する
(2)文の核となる主語・述語動詞を最初に決定する
(3)必要以上に日本語に引きずられないようにする
●「超難問」は満点を狙わなくていい
本番の試験で英訳するのにぴったりの表現が思い浮かばなかった時の対処法。
・その部分だけ空欄にする、あるいは日本語でごまかすのは絶対にやめること。
・多少の減点は覚悟で、似た意味の言葉に置き換え、失点を最小限に抑える。
・文全体が英語としてある程度正しく成立していれば、部分点は確保できるはず。
初めから60~70%の得点を確保することを目指し、貴重な試験時間を空費しないように注意。
ライティング対策の中でも、和文英訳は自由英作文よりも参考書を用いた独学がしやすいと言えます。
英訳のトレーニングを積むことで文法の知識も強化されますので、得点に繋がる解答方法を身につけながら、英語の総合力アップに繋げましょう。
なお、ハイレベルな問題演習に入る前に身に付けておきたい、和文英訳の攻略ポイントは、以下の記事で紹介しています。
>> 英作文対策・中級編 ~和文英訳攻略のための3つの視点~