この参考書のレポート
- 総合満足度
-
-
- わかりやすさ
-
-
- 見やすさ
-
-
- 使い勝手
-
-
- 使い始めた時期
- 高校卒業後 ・4月
-
- 使用期間
- 1年以上
使い方レポート
「大ベストセラー」だが、業界随一の問題作…。使用時は要注意!
さて、今回は、田中雄二氏の『漢文早覚え速答法』をご紹介します。
ただ、こちらの本、正直言って「相当な大問題作」です…。
色々と個人的なご縁もあってあべ的に陰ながら大応援しているGakkenさんの、言わずと知れた大ベストセラーであることは紛れもない事実。
でも、私の信条である「公平公正」に書評をするならば、国語の専門家として、本書は「駄作」と言う他ありません。
実に悲しいことですが、以下に、その理由を示していきたいと思います。
1.極端かつ古すぎる「使えない情報」の数々
本書を「良し」とできない理由は、何よりも上述の表題に集約されます。
とにかく、「情報提供の仕方が極端」なのです。「『全部否定』は入試に出ない」とか、「『のみ』と読む漢字→『耳』『而已』(他の漢字は入試に出ない)」とか…。
そして、その弊害が、2019年度のセンター試験でも明確に表れてしまっているのです。
田中氏は、「『何』が単独で出ていたら『何をか』だけ」と断言し、「何ぞ」という単純すぎる疑問表現は、「入試には絶対に出題されない」と、まさに「断言」しています。
ところが、2019年度のセンター試験では、この「何ぞ」を使った疑問表現が設問に取り上げられているのです。(第4問・問2)
それ以外にもいくつも反例を用意して、上述の命題をエビデンスを持って退ける用意はあるのですが、さて、この事実を一体どのように説明すればいいのでしょうか…?
2014年のパワーアップ版初版では、「文部省の検定教科書はこの『何ぞ』の一語で疑問表現を表す表現を注意深く避けている」(ちなみに2019年7月11月の第11刷では、辛うじて「文科省」に切り替わっていたのが、わずかばかりの救いでしょうか…苦笑)と書いていました。
しかし、文部科学省との関係を言い出したらキリがない、独立行政法人大学入試センターが作成した「センター試験」において出題歴があるということは、上述も、何ら根拠に乏しいものだと言う他ありません。
こうした、同業者から見て「ありえない」と言わざるを得ないような、そして、敢えて読者の皆さんのことを考えて言葉を選ばずに申し上げるのであれば、「妄言」・「虚言」としか言いようがないような内容が平然と列記され、さらに、それがあたかも「受験生の常識」とでも言われるような形で、全国各地の書店さんで平積みされて、広く流布され続けていることが、私(あべ)としては悲しくてなりません…。
「パワーアップ版」と銘打つのであれば、まさに内容をパワーアップして欲しいと切に思います…!
ただ、本書に関しては、初版→改訂版→パワーアップ版と全てを見比べていっても、内容がほとんどブラッシュアップされておらず、誤植に関しても全然修正されないものもたくさんありました。
すなわち、書籍としてのレイアウトなどは全面改修されましたが、最も大切な内容面に関しては、「文部省」を「文科省」と打ち換えるくらいの「表面的改訂」しかなされていないのです。
これでは最新の入試傾向に全く対応できていません。漢文にも出題傾向はありますし、それを踏まえないと、まさに本書のような「有名無実な学参」になってしまいます。
それでは、少し話を「極端さ」に戻して…。
確かに、東大出身の有名(?)漢文講師の田中氏が、絶対なる自信を持って「極端」に漢文の出題傾向を断言する。その「極端」であることが本書のウケる点ではある訳ですよね。人間だれしも「これだけでいい」と言われれば「ラク」ですからね!
でも、本当に受験生のことを考えるならば、「教えるべき内容はきちんと教える」という執筆態度でもって紙面構成を行うべきです。現状のままでは、「本書を信じた受験生が悲劇に見舞われる」という事態は必至…。あべの周りでも、そういう声は今までたくさん頂戴しています。
たとえ、国語にかける時間のない国公立理系志望者と言えども、本書は勧められませんね…。
ただ、ここ3・4年で、漢文学参の良書はみるみる減ってきています。これは危機的状況と言わざるを得ませんね…。(そのため、自身でもこっそりと原稿を準備中です。)
2.せめて学習時は知識の確認用に!一冊目での利用は避けて。
さて、前段の「1」の内容は、特に「漢文の初学者向け」の注意喚起だったのですが、敢えて言えば、「漢文の全体像はなんとなくつかめており、ざっくりとポイントを確認したい」という方であれば、本書は一読の価値はあるかと思います。
ただし、「極端な内容」であることを承服したうえで、「話半分に聞き流す」という「リテラシー」ある姿勢が大切ですよ!