国公立大学の二次試験や私立大学の個別試験、あるいは推薦入試を受験する上で、日本史の「論述」問題対策が必要な場合があります。通常の知識問題とは違って、論述問題に対しては具体的に何をすれば良いか分からず、漠然とした不安を抱いてしまいがち・・・。
日本史の「論述」問題を得意分野にするため、各大学の出題傾向を分析するのに必要なポイントや、具体的な勉強法のステップ、用意しておきたいおすすめの参考書を紹介します。
※この記事は2021年6月に書かれた内容を、一部最新の情報にリライトしたものです。
1. 大学入試における日本史の論述問題
1-1. 志望大学の出題傾向を知る
日本史の「論述」試験の問題内容・形式は、大学によって様々です。「論述」対策に取り組む前にまず必要なのは、「大学の出題傾向を知る」ことです。出題傾向を分析するために押さえておきたい要素は様々ですが、「大学側がどのような力を受験生に求めているのか」をはっきりさせることが重要です。
例えば解答に必要な「文字数」の場合、その分量は、数十字~200字程度の短いものから、600字前後のものまであります。
また、問題文を読んで内容の「要約」を求める問題と、根拠をもとに自分の意見を書く「論述」問題など、「どのように聞かれるのか」という形式的な違いもあります。
さらに、各大学の日本史の「論述」問題を分析する上で不可欠な要素が「出題される時代」です。これは大学によってかなり差がありますが、特に「近現代が出題されるかどうか」と「考古学の問題があるかどうか」については、必ず確認してください。大学側から出題範囲がはっきりと示されていない場合は要注意ですが、この点はその大学の入試問題について特徴が出やすい分野ですので、慎重に分析してください。
論述問題の過去問は一般入試の過去問に比べて入手困難である場合も少なくないですが、可能であれば手に入れるようにしましょう。大学のオープンキャンパスなどで入手できる場合もあります。
1-2. 深い対策が必要な論述問題の種類
志望大学の出題傾向が分析できたら、いよいよ対策の開始です。…とはいえ、いくら「論述」対策といえども、日本史にばかり時間をかけることはできないでしょう。「どれくらい力を入れて対策をすればよいのか」を判断する上での境界線は、「解答に必要な文字数」にあります。
問題全体における論述の重要性にもよりますが、200字までの短い論述問題を主とする場合は、普段の勉強で使っている問題集に掲載されている「論述」問題を意識して解く、または過去問を解いて論述に慣れるくらいで十分だと思います。用語をしっかりと暗記し歴史の流れをつかむなど、日本史を「理解」できていればさほど難しくはないはずです。
ただし、短い論述問題が複数出題される試験の場合、「論述」問題の重要性は高まりますので、少し力を入れた対策が必要でしょう。その場合は、短い論述問題を多数掲載している問題集に取り組んでみてください。
一方で600字前後の長い論述を求められる場合は、普段の日本史の勉強とは別に対策が必要です。一般入試でこの程度の論述を求められる場合も少なくないですが、特に推薦入試を利用するような場合は、この程度の論述には慣れておく必要があります。
ここからは私の経験も交えながら、日本史の「論述」に必要な力を身につけるために必要な勉強法を紹介します。
2. 日本史の「論述」力を着実に身につける
2-1. 基礎的な日本史用語の暗記を完成させよう
日本史の「論述」問題に答える上で、まず必要になるのは用語の暗記です。
「論述」対策と並行して通常の問題集も解くことで、知識の漏れがないかを確認しましょう。受験する大学のレベルにもよりますが、「論述」の問題を解く上では教科書を隅から隅までしっかり読んで、要点を抑えることができていれば問題ないはずです。
また、用語の暗記にとどまらず、歴史の流れを確実に把握するようにしてください。歴史の流れが分かっていれば、1つ用語を思い浮かべると芋づる式に思い出せますし、すらすらと解答することができます。
歴史の流れを把握するには教科書を読むと良いでしょう。教科書は主に文章で構成されているので、教科書を読みながら「歴史を文脈でインプットする」ことで、「論述」問題に必要な文章構成力を養うことができます。歴史の流れを把握するには最適の教材です。
さらに、教科書に加えて資料集を活用することをおすすめします。資料集は写真や図がたくさん掲載されていますので、繰り返し眺めることにより、対象となる情報をより印象付けて覚えることができます。また、隅まで読むと発展的な知識も多く掲載されていることが分かると思います。入試では文章だけではなく、写真やグラフなどの図を使って出題されることも多いです。問題集を解いて間違えた箇所は、教科書とあわせて資料集も確認することで、より確実に知識を身につけることができるでしょう。その時確認した箇所には、後から見返した際わかるように印を付けておいてください。
用語の暗記には「一問一答問題集」を使うのも良いですが、しっかり手を動かしながら問題を解く方が、アウトプットしながら用語を確認することができるのでおすすめです。自分に合った問題集を繰り返し解いてみてください。できる限り入試本番を想定して対策を進めるようにしましょう。
2-2. 日本史の「史料読解」と「論述」に慣れよう
ある程度用語を暗記できたと感じたら、「論述」対策を始めましょう。何よりもまず初めに伝えたいのは、「論述の問題を解いた時は必ず学校の先生などに添削してもらう」ということです。
論述試験は正解が1つではありませんし、解答例と違うから不正解ということでもありません。自分以外の人に添削してもらうことで「客観的な視点を得る」ということが重要です。
また、「論述」対策と言っても最初から過去問や実践的な問題を解くのではなく、「史料を読むことに慣れる」練習から始めてください。そこでおすすめしたいのは、「史料を読んで現代語訳をして自分の意見を書く」という方法です。
日本史の史料は、資料集に別冊子として付属していることが多いです。そこには有名かつ日本史を勉強する上で必要な史料がまとめられています。
あるいは日本史の史料に特化した参考書を活用しても良いでしょう。それらの史料をひとつずつ読んでみてください。そして自分で現代語訳をしてみましょう。この時、古文や漢文の文法などが気になる場合は復習してください。またその史料におけるキーワードや特徴となる言葉などがあれば、あわせて覚えましょう。史料の特徴を掴んでいれば、問題となっている史料について簡単に思い出せるようになるからです。現代語訳は、古文や漢文の試験に求められるような正確さはそれほど必要ありません。内容を完全に汲み取れていればOKです。
*実際に史料の現代語訳を書き出したノート
史料の現代語訳ができたら、その内容に対する自分の意見を書いてみましょう。重要なのは「根拠に基づいて意見を書く」ということです。
自分の考えに説得力を持たせ、相手を納得させるには「事実」が必要です。これは大学生になってからはもちろん、社会に出ていく上で不可欠な要素です。「論述」試験では自分の意見を書くだけではなく、「これまでに~がおこなわれているから」、「~という内容が史料に見られるから」などといった、史実に基づいた根拠がなければなりません。根拠が記されていなければ点数はもらえないでしょう。慣れるまで何度も書いて、添削してもらってください。
なお、史料の数は膨大ですから、全て読むことは不可能です。古代の史料から順番に読み、できるところまで進めてください。近現代の史料は今我々が使っている日本語に近いので初見でも読めると思います。一方、古代や中世の史料は文法や単語だけではなく、漢字も難しいことが多いので、読み下す時にミスをしないよう丁寧に読んでください。
この練習はとても時間がかかります。ですから、入試で論述が必要と分かった時点で始めてください。この時点では字数制限は設けなくて良いと思います、ちょっとしたスキマ時間で取り組むことができますので、コツコツと進めてください。
2-3. 入試本番を想定した日本史の「論述」対策
史料を読むことに慣れ、自分の意見を書けるようになったら、いよいよ本格的な「論述」対策に入ります。このタイミングで論述問題集や過去問に取り組んでください。この時も必ず先生などに添削してもらいましょう。
時間制限もあるので、初めは満足な答案は書けないと思います。ですが、まずは「何が問われているのか」をはっきりさせてください。
例えば、千葉大学の入試では、過去に「縄文・弥生および古墳の三時代の墓を比較し、時代による社会変化を説明せよ」といった趣旨の出題がされました。この時重要なのは、「比較」と「時代による社会変化」です。この2点を押さえた上で論述する必要があります。
問題文にはたくさんヒントがありますから、丁寧に読んでください。また重要なポイントには印を付けると分かりやすいでしょう。
「何が問われているのか」が分かったら、文章を組み立てます。文章を書く前に、答案に必要となる用語や要素を書き出して繋げてみてください。解答の文字数にもよりますが、必要であればさらに内容を膨らませましょう。文章を書く前に頭の中を整理することで、論理的な文章を書くことができます。
この作業を経て、ある程度構成ができたら文章を書き始めてください。答案を作成するペース配分には注意が必要ですが、時間をしっかり使って「論述」の問題と向き合いましょう。
3. 日本史「論述」対策のおすすめ参考書
続いて、日本史の「論述」試験の対策をする上でおすすめの参考書を紹介します。
『“考える”日本史論述 -改訂版-』(河合書店)
難易度の高い問題を多く取り扱っていますが、「論述」の問題を解く上で重要なポイントが詳細に記されていること、解説が事細かに書かれていることから、正解に至るまでの過程を自分で復習することができます。解答に必要な文字数や種類も様々な問題が収録されていますので、多くの大学の「論述」試験対策に対応できるでしょう。
掲載されている問題は、東京大学などの旧帝大を始めとした難関国公立大が大半を占めているので、最難関の大学を目指す人は全ての問題を解くことをおすすめしますが、そこまでの対策が必要でない場合は、まずは東京大学以外の問題を解いてみると良いでしょう。余裕があれば東京大学の問題にもチャレンジしてみてください。
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『大学入試 全レベル問題集 日本史(日本史探究) 5 国公立大レベル 新装新版』(旺文社)
この参考書には、数十字の解答を要する短い論述問題がたくさん収録されています。「論述」対策を始めたばかりで文章を書くことに慣れていない人や、まずは簡単な論述問題から挑戦してみたいという人におすすめの1冊です。
また、国公立大二次試験の出題傾向を分析しているページもあります。入試本番を想定した実践的な問題に触れることができるでしょう。
『日本史史料一問一答 【完全版】 2nd edition』(東進ブックス)
日本史の「論述」対策において必要な「史料」に特化した参考書です。史料の穴埋め問題以外にも、その史料に関連した知識を問う一問一答問題も収録されています。現代語訳と解説が丁寧なので史料に対する理解を深めることができます。
また問題だけではなく史料もレベル分けされているので、必要性を見極めながら勉強を進めることができるでしょう。ちょっとしたスキマ時間の利用にも便利です。
『新詳日本史』(浜島書店)
もし日本史の資料集を持っていないという場合におすすめの1冊です。写真や地図、グラフなどが多数掲載されていることが特長です。また小さな字で記されている図の解説には発展的な知識がたくさん含まれているので、あわせて読むと良いでしょう。
分からない問題や間違えた問題があった場合は、この資料集を、辞書を引くような感覚でめくることをおすすめします。何度も繰り返し目から情報を得ることにより知識が定着しやすくなるので、効果的な学習につながります。また史料がまとめられた冊子が付属しているので、史料読解の練習にも活用してください。
『日本史 標準問題精講 [五訂版]』(旺文社)
最難関レベルの大学を受験する、もしくは日本史がとても得意で、もっと難しい問題に挑戦したい場合におすすめの参考書です。一方で基礎レベルの知識が定着していない人にはあまりおすすめできません。
「論述」試験を受験するにあたって、知識が多いに越したことはありませんが、「発展的な知識を身につける」という点においてふさわしい問題が、この参考書にはたくさん掲載されています。基礎レベルの問題はほとんど収録されていませんし、中には、教科書にも資料集にも載っていないような知識を問うものもありますが、1問ごとに丁寧な解説が付いているので、1周するだけでも実力の向上を実感できるでしょう。
*日本史対策については、これらの記事も参考にしてください。
>>日本史「文化史」の勉強法 ~大学受験で差がつく文化史用語の覚え方~
>>【独学】大学受験「日本史」対策の流れとおすすめ参考書・問題集
4. まとめ
最後にこの記事のポイントを振り返ります。
日本史「論述」試験の対策に取り組む上でのポイントは次の3つです。
- 大学の出題傾向を分析し、大学側が受験生にどのような力を求めているのかはっきりさせる。
- 過去問などの本格的な問題に取り組む前に、まずは基礎的な知識を定着させ、史料を読むことに慣れる。現代語訳に書き直すトレーニングも効果的。
- 問題文を読んだら「何が問われているのか」を明らかに。自分の意見を書く時は必ず史実に基づく根拠を示し、説得力のある文章になるように心がける。また、論述の問題を解いたら先生などの第三者に添削してもらう。
「論述」問題には慣れるまで時間がかかると思いますが、日本史の知識と世界観を広げることのできる、とても有意義な学習と言えます。教科書や資料集、参考書を味方にしつつ、丁寧な学習を心がけてください。