世界史の基礎知識の習得や一問一答レベルの問題集には取り組み始めているものの、「論述問題」となると、どのように勉強すればよいのか…と不安を抱える人も多いでしょう。難関国公立大学の2次試験で出題される世界史の論述問題に対応するためには、あらゆる時代・地域の知識を総動員して取りかかる必要があります。
この記事では、各大学の世界史論述の出題傾向と勉強法の5つのポイント、対策の助けになるおすすめの参考書を紹介します。
※この記事は2019年6月に書かれた内容を一部最新の情報にリライトして投稿したものです。
1. 世界史論述を出題する主要大学とその傾向
1-1. 世界史論述にはどんな種類がある?
一口に「論述問題」と言ってもその種類はさまざまです。
まず、分量については、30~100字程度で簡潔にまとめるものから、600字もの長い記述を求めるものまであります。厳密な決まりはありませんが、100字に満たない短めのものを「小論述」、300字を超える特に分量の多いものを「大論述」、その中間の分量のものを「中論述」と言います。
形式もさまざまで、指定語句が示されるものや、提示された史料や地図から読み取れることを参考に論述するよう求める問題もあります。
論述を出題する大学の多くは、例年似たような形式・分量を踏襲する傾向にあり、字数や形式が大幅に変わることはめったにありません。そのため、論述対策では過去問の分析が非常に大きな意味を持ちます。また、自分の志望校と似たような出題傾向を持つ大学の過去問に取り組むことも有効な勉強となるでしょう。
そこでまず、主要な国公立大学がそれぞれどのような世界史論述を出題しているのかを確認しましょう。
1-2. 大学別の出題形式
・東京大学
東京大学では大論述1題と小・中論述が複数出題されます。
東京大学の論述対策については、以下の記事で詳しく解説しています。東大以外の国公立大を受験する人にとっても東大の過去問演習は大変有益なので、参考にしてください
>> 東大入試の世界史「大論述」問題を攻略!合格を引き寄せる勉強法と参考書
・京都大学
京都大学では300字の論述が2題出題されます。
オーソドックスな問題であり、教科書内容をきちんと学習すれば対応できますが、どの地域・時代からもまんべんなく出題されるので、幅広く正確な知識とそれを指定字数内でまとめる能力が求められます。例年東洋史から1題、西洋史から1題の出題で、特に東洋史では「中国史」がテーマとなることが多く、入念な対策が必須です。
・一橋大学
一橋大学の世界史は例年論述問題だけで構成されています。
400字の問題が3題(年によってそのうちの1題が200字×2や50字+350字などに分かれることもあります)で、第1問は中世ヨーロッパ、第2問は近現代ヨーロッパ、第3問は近現代東アジアがテーマとなるのが通例です。
「フランス絶対主義がどの程度『絶対的』であったか」「フス戦争の背景、結果と意義」など、大学受験レベルを超えているように感じられる非常にハイレベルな問題もありますが、その多くは「古代」「中世」「近世」「近代」がどのような時代なのかという、歴史に対する深い理解・洞察力を問うています。
ユニークな視点から歴史に切り込む出題が多いので、過去問分析を十分に行っておくことが重要になります。
・東京外国語大学
東京外国語大学では、例年400~600字の論述と100字の論述が出題され、近現代を対象範囲とし、史料から読み解き答える形式となっています。
一問一答形式の問題は基礎レベルですが、論述問題はここ数年難化傾向にあります。したがって十分な対策が必要となりますが、英語の点数配分が非常に大きい(世界史100点満点に対して英語300点満点)ため、東京外大を目指す人は勉強の優先順位を誤らないように留意しましょう。
・東京都立大学
例年30字から200字程度の論述問題が10題前後出題されます。様々な時代からまんべんなく出題されます。
・筑波大学
筑波大学の世界史は例年400字の論述4題で構成されます。
古代から現代までまんべんなく出題されるので、通史をまだ最後まで学習し終わっていない段階でも取り組みやすい問題が多く、筑波大を受験しない人にとっても、こちらの過去問は早い時期から論述の練習をするのに適しているでしょう。
・大阪大学
大阪大学では50~250字程度の論述が複数出題されます。
グラフや史料、会話などから読み取れることを参考に論述するというユニークな出題形式が多くなっています。
・名古屋大学
名古屋大学では350~400字程度の大論述に加え、小・中論述が10題前後出題されるのが特徴です。
・九州大学
九州大学では2015年度以降、文学部の2次試験で地理・歴史が課されるようになり、世界史では500~600字という大論述が出題されています。
2. 世界史論述対策はいつから始める?
2-1. まずはインプット
世界史の論述対策はいつ頃から着手すればよいのでしょうか。
志望校の過去問を見て難しそうな論述が出題されることを知ると、「早く取り組まなければ」と焦ってしまう人もいるかもしれません。
しかし、結論から言えば、論述対策のスタートを焦る必要はありません。というのも、論述問題に対応するためには、設問の要求を理解し、自分の持てる世界史の知識を総動員し、情報を取捨選択しながら解答を構成していくハイレベルな技術が必要とされるため、十分な知識が身についていない状態で取り組んでもあまり意味がないからです。
論述が解けるようになるためには、まずは一問一答レベルの基礎知識の定着や、共通テスト・私立大学入試レベルの問題を解くための学力養成が必要です。
さらに、古代から現代までの全時代が論述の出題範囲となるものの、特に多く出題されるのは近現代をテーマとする問題です。このことからも、まだ通史の学習を終えていない段階で論述対策に力を注ぐことはあまり効果的ではないと言えるのです。
まずは、志望校がおおよそ決まった時点で過去問をチェックし、どのような問題が出題されるのか確かめておくとよいでしょう。まだこの時点で演習を始める必要はなく、論述問題の傾向を知っておくだけで十分です。高校2年生の1~2学期頃から志望校の出題傾向を把握しておくことは勉強へのモチベーションアップにもつながり、知識のインプットにより力を注ぐことができるでしょう。
2-2. アウトプットの開始時期
論述の本格的な対策、つまりアウトプットの開始時期は、知識のインプットがどれだけ進んでいるかによって決まります。
高校2年生のうちに知識のインプットが進んでいる人は、高校2年生の冬以降に論述にチャレンジしてみてもよいでしょう。その場合は通史の学習を終えていない人が大半でしょうから、志望校の過去問やそれに類似する問題を出題している大学の過去問、市販の論述問題集から既習範囲の問題を探して取り組んでみてください。
学校の定期試験で論述が出題されるなら、それが論述に慣れていくための絶好のチャンスとなります。試験で解いて終わりにするのではなく、答案返却後にしっかり復習するのを忘れないようにしてください。
一般的には、高校3年生の秋までに始めることを1つのタイムリミットとしましょう。高校3年生の夏までは基礎固めに専念するのがよいでしょう。
東京大学や一橋大学など、特にハイレベルな論述が出題される大学を受験する場合は、もっと早く、高校3年生の春には対策を始めて論述に慣れておくことをおすすめします。
ただし、国公立大学の受験生は共通テスト対策に力を注ぐことが優先事項です。論述の対策ばかりで他の科目や世界史の基礎がおろそかになり、2段階選抜の第1段階を突破できない(いわゆる「足切り」される)ようでは本末転倒です。
学校の授業でなかなか通史が終わらないため、論述対策に本腰が入らないという人もいるかもしれません。そのような場合は、既習範囲から出題されている論述問題を探して取り組むことから始めるとよいでしょう。
世界史の論述対策の開始時期は、志望校の決定、自分の知識の「インプット」の進捗具合、他の教科の勉強に必要な時間とのバランスなどを総合的に考慮し、各自判断して決めるようにしましょう。
3. 世界史論述の対策を円滑に進める5つのポイント
続いては、論述対策の具体的な進め方について見ていきましょう。
世界史の論述は、英語の自由英作文と少し似ています。基礎力がついていない状態で対策を始めようとしても、どう書けばよいのか始めは戸惑います。
また、模範解答を見ても自分の答案を正確に採点するのが難しいという点も似ています。そのため、論述問題の練習はハードルが高いと感じる受験生が多いようです。
ここでは、具体的な勉強法について5つのポイントを解説します。
3-1. まずは100字以内の小論述から
まだ慣れていないうちからいきなり400字や600字の論述にチャレンジするのは少し無謀と言えるでしょう。いわゆる「大論述」は単に字数が多いだけでなく、歴史の流れを俯瞰的に捉える力が必要とされるため、実際に解くのが難しいのです。
例えば、2012年の名古屋大学では「ワットタイラーの乱の背景」を3行(=100字前後)で説明する問題がありましたが、2014年の一橋大学では「ワットタイラーの乱の政治的・社会的背景」を400字以内で説明する問題が出題されました。同じテーマであっても、後者の方がより深く掘り下げて書く必要があるため、受験生にとっては難しいはずです。
そのため、まずは100字以内の小論述から始めるのがおすすめです。字数が少ない問題は問われていることも比較的シンプルなので、世界史論述に慣れるのに適しています。
3-2. 参考資料を見るのはOK!
論述を練習し始めた最初のうちは、教科書や用語集、資料集などを見ながら解いても構いません。もちろん模試や実際の入試では何も見ないで解答しなければいけませんが、初めは書くことに慣れるのが重要です。
分からない事項はその都度調べて、インプットしながら論述の練習を進めていきましょう。何も見ないで答案を作成する練習は、高校3年生の夏くらいからで十分間に合います。
ただし、解く際に資料を見るのはよいとしても、解き終える前に決して模範解答を見てはいけません。模範解答を読むと分かったつもりにはなりますが、自分で考える力がいつまで経っても身につかないからです。
3-3. メモの作成は必須
論述を解く際、設問に目を通してすぐに答案を書き始めることはおすすめしません。その前に自分なりのメモを作って全体の構成を練ることが必要です。
なぜなら、考えがまとまらないうちから文章を書き始めると、字数が足りなくなったり文章の構成が論理的でなくなったりすることが多いからです。これは練習時だけでなく、試験本番でも必要な作業で、メモの精度が答案の得点を左右するといっても過言ではありません。
メモの作成に過度に時間を割かずに済むように、使用する用語を矢印でつなげたり、シンプルな図や表でまとめたりするなど、問題に応じて自分なりに工夫してみましょう。
論述対策において問題演習を数多くこなすことはもちろん重要ですが、そのための時間が確保できない時は、メモを作るだけでも有効な勉強になります。
3-4. 論述対策では「教科書」が大活躍
「教科書は分かりづらい」という声がよく聞かれます。確かに教科書を読むだけで世界史を完全に理解するのは難しいかもしれませんが、実は、論述対策で大いに活躍するのがこの教科書なのです。
論述とは、難関私大のように細かな知識を問うのではなく、重要事項を問う問題です。それに必要な知識を過不足なくまとめてあるのが教科書なのです。
論述問題のほとんどは教科書レベルの知識で解くことができます。教科書を隅から隅まで読み込み理解することが、世界史論述の力を伸ばす一番の近道です。
さらに、重要事項を必要最低限の言葉で分かりやすく説明している教科書の文章は、そのまま論述の答案に応用するのに適しています。論述がうまく書けないと悩んでいるなら、教科書のこなれた表現を自分の中にストックし、それを参考に答案を作成することから始めてみましょう。
3-5. 解き終わった後は復習、できれば添削を
論述を解いた後は、まずその問題集や過去問の「解答・解説」をじっくり読みましょう。
明らかに間違っていたり知識が不足していたりする部分は自分で復習につなげることができるでしょう。書きっ放しでは全く意味がなく、復習に時間をかけることが大切です。
しかし、ある程度論述が書けるようになってくると、答案と模範解答を比べて出来具合を判断することが難しくなるかもしれません。そのような段階にまで到達したら、学校や塾の先生など、受験世界史に詳しい人に添削をお願いするのがおすすめです。客観的に答案を見てもらうことで、効率的に復習することができます。
4. 世界史論述の対策におすすめの参考書
初めて論述を解こうと思ったときに、いきなり過去問に手を付け始めてしまうと難しくて全く歯が立たないと感じるかもしれません。
まずは参考書を使って少しずつステップアップを目指すのが得策です。世界史の論述対策におすすめの問題集を6冊紹介します。
『みるみる論述力がつく世界史』(山川出版社)
「基本編」「発展編」に分かれた構成です。
「基本編」では「よくある解答」に対する辛口採点と、具体的にどの部分を改善すべきかが詳細に解説されています。また、合格答案に必要な知識について教科書の該当ページを利用した空欄補充が掲載されているため、山川出版の教科書を使用している人には特に使いやすいでしょう。
「発展編」では各問題について「論述解法の手順」を7つのステップを踏んで解説しています。
丁寧なつくりで、挫折しやすい人にもおすすめの1冊です。
『段階式 世界史論述のトレーニング』(Z会)
「段階式」とあるように、100字以内の「入門編」から300字以上の「実践演習編」へと段階を踏んで、論述力をレベルアップできるつくりになっています。冒頭には論述問題の基礎知識が詳細に記されており、初めて論述に取り組む受験生でも自学自習しやすい工夫がなされています。
採点ポイントが細かく記されているので自己採点もしやすく、掲載されている「生徒の答案」を見て自分の答案と比較できる点もおすすめです。
『判る!解ける!書ける!世界史論述』(河合出版)
解説つきの例題75題に加え、練習問題が116題もあり、量をこなすにはぴったりです。約10年ぶりに改訂されたため、近年の論述問題を豊富に掲載しています。
各例題の解説に付されている「書くべき内容をメモしてみよう」は、簡潔で分かりやすいメモを作るための参考になるでしょう。
「テーマ史研究編」の章では近年の頻出テーマである「地域間交流・ネットワーク」や「史料問題」も練習することができます。
『世界史論述練習帳new』(パレード)
回答の字数や単元ごとに章立てしている論述参考書が多い中で、こちらの参考書は「設問の要求」に焦点を置いている点が特徴です。「過程を述べよ」「影響を述べよ」といった要求にそれぞれどのように解答すればよいかが丁寧に説明されているので、大変参考になります。
別冊の「基本60字」では、過去問で問われてきた小論述が数多くまとめられており、頻出テーマの特訓にもってこいです。
『大学入試 全レベル問題集 世界史B(5)国公立大レベル 新装版』(旺文社)
2018年夏に出版された新しい論述問題集です。2024年に新装版が出版されました。
「志望大学別 問題分析と特徴」では、主要国公立大学の入試概要と論述問題の特徴が簡潔にまとめられており、志望校の論述の傾向を知ることができます。
「フレーム作り」(=解答の大枠を考える作業)の解説は分かりやすく、どう書いてよいのか分からない場合に役立つでしょう。時間配分について細かく指示がある点もおすすめです。
『新訂版 流れ図で攻略 詳説世界史B』(山川出版社)
これまで紹介した参考書とは異なり、論述の参考書ではありません。教科書の各単元について、見開きで左ページに出来事の因果関係が簡潔にまとめてあり、右ページに平易な穴埋め問題があるという構成です。
世界史の論述は細かな知識を問うのではなく、歴史上の「変化」「経緯」「影響」などを論じることを求めています。そのため、それらを視覚的にまとめてくれている「流れ図」は、論述問題に取り組む際に大きな助けとなるでしょう。
5. まとめ
世界史論述を勉強する上でのポイントをまとめます。
- 自分の志望大学がどのような論述問題を出題しているのか知っておくこと。
- 論述を解けるようになるためには十分な知識の「インプット」が必須。基礎知識の定着を怠らないようにすること。
- 論述力は一朝一夕には身に付きません。分からないことは調べ、メモをきちんと作り、復習するというサイクルを繰り返すこと
- 論述の参考書を用いて効率的に記述力をアップさせてから、志望大学の過去問にチャレンジ!
世界史の論述では、世界史に対する深い理解と問題に応じた表現力が問われます。逆に言えば、論述対策をおこなうことで、背景や流れの理解が深まり、各項目の暗記がしやすく感じるようになるはずです。
十分な準備をして本番の試験に臨みましょう。